企業と働き手の間で取り交わされる契約書には、「労働契約」や「雇用契約」という言葉が使われます。一見似ているこの2つの用語ですが、実は法律上の定義や使われる場面に違いがあります。本記事では、労働契約と雇用契約の基本的な意味、両者の違い、法的なポイントをわかりやすく整理して解説します。
労働契約とは?
労働基準法に基づく正式な契約
労働契約とは、労働者が企業に対して労働を提供し、その対価として賃金を受け取るという内容で取り交わされる契約のことです。これは労働基準法第6条および第13条などを根拠に規定されており、法的に強く保護された契約形態です。
つまり、労働契約は「労働者を保護すること」を目的にした制度であり、働く側に有利な法律が適用される仕組みになっています。
労働契約の主な内容
- 労働時間・休日
- 賃金(支給方法・金額)
- 就業場所・業務内容
- 雇用期間(有期・無期)
- 解雇・退職の取り扱い
労働契約を交わすことで、企業には「労働条件通知義務」が発生し、労働者には「指揮命令に従う義務」が課される形になります。
雇用契約とは?
民法上の「契約類型」の一つ
雇用契約とは、民法第623条に定められている契約形態で、「労務を提供し、その報酬を受け取る契約」とされています。労働契約と比べると、やや広い意味を持ち、主に契約の法的形式や立場の整理に用いられます。
民法では、委任契約・請負契約・雇用契約など、さまざまな契約の類型が存在し、その一種として雇用契約が位置付けられているという構造です。
雇用契約の使用場面
- パートタイム・アルバイトとの契約書上の表記
- 派遣元企業との契約関係
- 法務文書や契約書テンプレートでの一般的な表現
法律的には、労働契約も雇用契約の一種に含まれますが、労働基準法などの適用があるかどうかで、使い分けがされています。
労働契約と雇用契約の違いとは?
比較項目 | 労働契約 | 雇用契約 |
---|---|---|
根拠法 | 労働基準法、労働契約法 | 民法(第623条) |
法的保護の範囲 | 労働者保護が強い | 民法ベースで柔軟に対応可能 |
契約の対象 | 労働者と使用者の関係 | 労務提供と報酬の授受 |
表現の使用場面 | 実務・労務管理・行政対応時 | 契約書・民法上の分類・一部業務委託時 |
労働基準法の適用 | 原則としてすべて適用される | 適用されない場合がある(請負契約等を除く) |
簡単に言えば、「労働契約=実務で労働基準法の対象となる労働者との契約」、「雇用契約=民法上の分類」であり、現場ではほぼ同義で使われつつも、法律上の意味合いは異なります。
両者が混同されやすい理由と影響
契約書での表記の違いが曖昧になっている
企業によっては、「雇用契約書」と「労働契約書」が混在して使われており、明確な使い分けがされていない場合もあります。法的にはどちらの名称でも契約内容が明記されていれば有効ですが、労働トラブルの際には、「どの法律が適用されるのか」が重要になります。
雇用形態によって呼び方が変わるケース
正社員には「労働契約書」、アルバイトや派遣社員には「雇用契約書」と記載するなど、企業側が社内ルールで分けていることもあり、混同を招いている原因となっています。
契約時に確認すべきポイント
確認項目 | 内容 |
---|---|
契約期間 | 有期か無期か。更新の有無も明記されているか |
賃金の支払い方法 | 時給・月給の別、振込日、残業代の取り扱いなど |
就業場所・業務内容 | 配属先の記載、転勤の可能性、職務範囲の明記 |
労働時間・休日 | 始業終業時刻、休憩、シフト制の内容など |
解雇・退職の条件 | 解雇事由や退職手続き、退職金制度の有無など |
試用期間 | 試用期間の有無とその条件(解雇や給与の扱い含む) |
特に有期契約の場合、「更新の可能性があるかどうか」「更新しない理由」が明記されているかを確認することが大切です。
トラブル回避のための対策
- 契約書は必ずコピーを取り、署名後も手元に保管する
- 不明点は口頭ではなく書面で確認する
- 労働条件通知書(労基法第15条)と契約内容を照合する
- 雇用形態に応じた法律の適用範囲を把握しておく
- 契約更新時には変更内容を必ず確認する
まとめ
労働契約と雇用契約は、どちらも「働くための契約」であることには変わりありませんが、法律上の意味や保護範囲には違いがあります。特に労働基準法の適用があるかどうかは、労働者の権利に大きく関わるため、契約時には注意が必要です。
契約書の文言だけでなく、その中身や適用される法律を正しく理解することが、安心して働き続けるための第一歩です。契約書を「形式的なもの」と思わず、自分の働き方と権利を守る大切な資料として、しっかり向き合いましょう。