近年、企業の人事制度見直しの中で「ボーナスの給与化」が注目されています。従来の賞与制度を廃止し、毎月の基本給にボーナス分を含めて支給する方法です。しかし、制度変更にはメリットだけでなく、慎重な検討が必要なデメリットも存在します。本記事では、ボーナスの給与化が意味するものや、企業・従業員の双方にとっての影響について、わかりやすく解説します。
ボーナスの給与化とは
ボーナスの給与化とは、年2回などにまとめて支給していた賞与を廃止し、その分を月々の給与に上乗せして支給する仕組みを指します。制度としては「賞与廃止型給与制度」とも言われ、実質的に「固定給の増加」という形になります。
導入の目的としては、人件費の平準化や計画的な給与設計、従業員の生活安定を図るためなどが挙げられます。昨今の人材確保や定着率向上を図る企業にとっては、給与体系の見直しが重要な戦略のひとつとなっています。
なぜ今ボーナスの給与化が注目されているのか
背景には、コロナ禍や経済不安によって業績連動型の賞与が減額されるリスクが顕在化したことがあります。従業員からは「賞与がない年は収入が不安定」という不満の声が高まり、企業側も報酬設計の安定性や透明性を重視するようになりました。
また、年収額では同じでも「月収が高い方が安心」と考える若年層が増えている傾向も、制度転換を後押ししています。特に中小企業では、資金繰りや予算管理のしやすさも、ボーナスの給与化に踏み切る理由のひとつです。
ボーナスの給与化のメリットとは
ボーナスの給与化は、企業と従業員の双方にとって利点があります。以下の表に主なメリットをまとめました。
| メリット | 内容 |
|---|---|
| 月収の安定 | 毎月の生活設計が立てやすくなる |
| 人件費の予算化が容易 | 賞与の変動に左右されず、通年の計画が立てやすい |
| 採用時の印象向上 | 月給が高く見えるため、求人上の訴求力が上がる |
| 社員満足度の向上 | ボーナスが出ない不安からの解放 |
特に固定給を重視する従業員にとっては、年収の見通しが立ちやすく、住宅ローンや子育てなど長期的なライフプランが立てやすい点が魅力とされています。
ボーナスの給与化のデメリットとは
一方で、賞与をなくすことによるデメリットも無視できません。企業としては、モチベーション維持や評価制度との整合性に注意が必要です。
■ インセンティブが低下する懸念
賞与は本来、成果や業績に応じた報酬です。これを固定化することで、従業員のモチベーションが低下する恐れがあります。
■ 柔軟なコスト調整が困難に
業績が悪化した際、賞与であれば減額などの調整が可能ですが、給与に組み込むと削減が難しくなります。
■ 制度設計と説明責任の負担増
従業員への丁寧な説明や、他手当とのバランス調整が必要になるため、導入には時間とコストがかかります。
従業員が感じやすい影響とは
従業員にとって「月収増加」という恩恵がある一方、感覚的に「ボーナスが無くなる」という不満も出やすくなります。以下に主な影響をまとめます。
- 年2回のまとまった出費(旅行・帰省・学費など)に対応しづらくなる
- 成果に対する報酬感が薄れる
- 会社の好業績を実感しづらくなる
- 他社と比較した際に「ボーナスなし」と捉えられやすい
制度導入時には、こうした心理的側面にも配慮した設計が求められます。
ボーナスの給与化が向いている企業とは
すべての企業に向いている制度ではありません。以下のような特徴を持つ企業に特に適しています。
- 長期雇用を前提とした給与制度を構築している企業
- 賞与の支給が業績や景気に強く左右される業種
- 従業員数が少なく、給与計算や管理コストを簡素化したい中小企業
- 月給を上げることで採用競争力を強化したい企業
導入の手順と注意点
ボーナスの給与化を導入する際は、以下のステップを踏むのが一般的です。
- 現行制度の分析と課題の明確化
- 経営層・人事・労務担当による制度案の策定
- 該当部署との意見交換と反映
- 就業規則の改定
- 従業員への丁寧な説明と合意
- 試行運用または段階的導入
特に就業規則の変更は労働基準法上の重要事項に該当するため、従業員代表との合意形成が不可欠です。
ボーナスの給与化と賞与制度の比較
以下の表は、従来型の賞与制度とボーナスの給与化の違いをまとめたものです。
| 項目 | 賞与制度 | ボーナスの給与化 |
|---|---|---|
| 支給タイミング | 年2回などの特定時期 | 毎月の給与に上乗せ |
| 業績との連動性 | 高い | 低いまたはなし |
| コスト調整の柔軟性 | 高い | 低い |
| 従業員の満足感 | 季節的な期待感がある | 生活設計はしやすいが刺激が薄い |
| 給与計算の煩雑さ | 手間がかかる | 単純化される |
まとめ
ボーナスの給与化は、給与の安定性向上や人件費管理のしやすさといった面で大きなメリットがあります。しかし、企業文化や従業員の価値観によってはモチベーション低下や不満につながるリスクもあります。
制度を導入する際には、企業の経営戦略や働き方に合致しているかを慎重に見極めることが重要です。柔軟な報酬制度の設計が、持続可能な人材活用と従業員満足の両立につながるでしょう。


