人材不足が叫ばれるなか、企業が新たな事業に挑戦するには従業員のスキル強化が不可欠です。「事業展開等リスキリング支援コース」は、経費と賃金の両方が助成対象になる注目の制度。本記事では、対象内容から申請条件、活用事例までを詳しく解説します。
人材開発支援助成金の意義と事業展開等リスキリング支援コースの位置付け
人材開発支援助成金は、厚生労働省が企業の人材育成を促進するために設けた支援制度であり、その中でも「事業展開等リスキリング支援コース」は、新たな業務への挑戦や業態転換を目指す企業に向けた極めて実践的な施策です。この制度の対象は、単に従業員のスキルアップを図る研修ではなく、企業が新しい分野に進出したり、デジタル化や脱炭素化に取り組む際に必要とされる専門的知識や技能の習得を目的とした訓練です。
企業の未来を見据えた取り組みとして、リスキリングはもはや選択肢ではなく「必須条件」です。特に中小企業では予算や人材面での制約が大きいため、制度の正しい理解と活用が今後の成長戦略を支える重要な鍵となるでしょう。
助成対象となる訓練の具体例と事業展開の方向性
助成の対象となる訓練は、新しい事業領域への対応力を強化するものが中心です。以下は代表的な訓練カテゴリとその内容の例をまとめたものです。
カテゴリ | 対象となる訓練内容 | 活用場面例 |
---|---|---|
新事業展開 | 介護職員初任者研修、観光業研修 | 既存事業からの多角化 |
DX対応 | RPA、BIツール、AI、IoT活用研修 | 業務効率化・自動化 |
GX対応 | エネルギー管理士講座、省エネ法関連研修 | 環境配慮型の事業展開 |
業務再構築 | 営業力強化研修、リーダーシップ研修 | 業務改革・組織再設計 |
このように、制度を活用することで現場に根差したスキルの定着が可能となり、変化に強い組織を構築することができます。導入前には自社の課題や今後の方向性を明確にし、それに合致した訓練内容を選定することが重要です。
助成内容・上限金額・賃金補助の仕組みと申請条件
この助成制度の大きな魅力は、「経費助成」と「賃金助成」の両方が受けられる点にあります。経費面での負担軽減だけでなく、社員に研修時間を確保するインセンティブにもつながります。以下に主要項目を再整理した表を記載します。
区分 | 経費助成率 | 賃金助成額(1人1時間) | 経費助成限度額(訓練時間別) |
---|---|---|---|
中小企業 | 75% | 960円 | 10〜100時間未満)30万円 100〜200時間未満)40万円 200時間以上)50万円 |
大企業 | 60% | 480円 | 10〜100時間未満)20万円 100〜200時間未満)25万円 200時間以上)30万円 |
年間上限 | ― | ― | 全企業共通で1億円(1事業所) |
※申請には「訓練開始前の計画提出」が必須です。また訓練後には実績報告や成果確認のための書類提出も必要です。社内での進行管理が成功可否の鍵となります。
導入事例で見るリスキリング支援の実効性と成果
以下は実際に本制度を活用して成果を上げた企業の例です。成功ポイントを含めて表で整理しました。
企業タイプ | 活用内容 | 成果と効果 |
---|---|---|
地方タクシー会社 | 介護タクシー事業展開のため「介護職員初任者研修」を受講 | 高齢者ニーズ対応による新規顧客の獲得、安定収益の確保 |
製造業グループ | DX対応研修(クラウド、RPAなど)を導入 | 月20%の残業削減、業務自動化による効率向上 |
医療法人 | 医療DX(無人受付、電子カルテ対応)の外部研修を受講 | スタッフのIT対応力強化、サービス品質の維持と省力化 |
これらの事例から分かる通り、「助成金=費用削減」ではなく、「新価値の創出」や「構造改革の後押し」として使うことで、組織に大きな変化をもたらすことが可能です。
まとめ
本制度を有効活用するためには、まず経営層が「なぜリスキリングが必要か」を明確にし、現場への具体的な落とし込みが必要です。社員が制度の目的や意義を理解していなければ、せっかくの研修も一時的な知識で終わってしまいます。企業は、社内のキャリアパスや人材の再配置戦略と連携させて、体系的なスキル強化を図るべきです。
また申請や手続きには煩雑な点も多いため、外部の専門家や社会保険労務士と連携して進める企業も増えています。将来のビジョンに基づき、制度の利用を単発ではなく中長期的な「人材戦略」として設計することで、持続可能な組織づくりを実現できます。これは、単なる経費削減を超えた「人的資本経営」そのものであり、企業価値を高める投資でもあるのです。