老後の資金対策として注目される「中小企業退職金共済(中退共)」と「iDeCo」。どちらも資産形成に有効な制度ですが、併用は可能なのか、併用することでどのようなメリットが得られるのか気になる方も多いはずです。本記事では、両制度の違いや特徴をわかりやすく解説し、従業員と経営者それぞれに最適な併用方法をご紹介します。
中小企業退職金共済(中退共)とは
中退共は中小企業の退職金準備を国が支援する制度です。事業主が毎月一定額の掛金を納め、従業員が退職した際に退職金が支給されます。制度の導入により、従業員の定着率が上がり、企業の信頼性向上にもつながります。企業は掛金を損金処理できるため、経費扱いとなり法人税の節税にも寄与します。
項目 | 内容 |
---|---|
制度の名称 | 中小企業退職金共済制度 |
管理機関 | 勤労者退職金共済機構 |
掛金範囲 | 月額5,000円~30,000円(16種類から選択) |
対象者 | 中小企業に勤務する常用従業員 |
掛金負担者 | 事業主(従業員個人負担なし) |
退職金の支給 | 被共済者が退職・離職時に一括または分割で支給 |
税制上の取り扱い | 掛金全額を損金(必要経費)として計上可能 |
iDeCoとは
iDeCoは個人が任意で加入し、老後に備えるための積立制度です。職業ごとに掛金の上限が異なり、節税効果が高いのが特長です。
加入者区分 | 月額拠出上限額 | 特徴 |
---|---|---|
自営業者 | 68,000円 | 掛金が大きく節税効果も高い |
会社員(企業年金なし) | 23,000円 | 加入しやすく節税にも有利 |
会社員(企業型DCあり) | 20,000円または12,000円 | 制限あり。併用要件に注意 |
公務員 | 12,000円 | 上限が低いが節税効果あり |
専業主婦(夫) | 23,000円 | 配偶者の扶養内でも加入可能 |
このように、iDeCoは収入や働き方に応じた柔軟な設計が可能で、特に自営業者は高額の掛金を拠出できるため、効果的に資産を積み立てることができます。
中退共とiDeCoは併用できるのか?
両制度は目的も仕組みも異なるため、基本的には併用が可能です。制度的な重複や禁止事項はなく、補完関係にあるといえます。ただし、iDeCoの加入時には他の企業年金との関係で掛金上限が変動するため、事前の確認が不可欠です。
中退共とiDeCoの違いと共通点
項目 | 中退共 | iDeCo |
---|---|---|
制度の目的 | 従業員退職金の準備 | 個人による老後資産の形成 |
掛金の負担者 | 事業主 | 本人(個人) |
税制の優遇内容 | 掛金は全額損金算入 | 掛金は全額所得控除、運用益非課税 |
給付のタイミング | 退職時 | 原則60歳以降 |
解約・中途引出し | 原則不可(退職時支給) | 原則不可(特例を除く) |
経営者と従業員の視点で見る最適活用法
経営者にとっては中退共を導入することで従業員の福利厚生を高めると同時に、法人税の節税も実現できます。また、自身はiDeCoを活用することで所得税・住民税の軽減に加え、将来に備える資産形成が可能です。
従業員にとっても、自社で中退共が導入されているなら、そこにプラスしてiDeCoを併用することで、受け取れる退職金の合計額が増え、安心して老後を迎えることができる設計が可能になります。
立場 | 中退共のメリット | iDeCoのメリット |
---|---|---|
経営者 | 従業員の定着強化、税務上の損金計上 | 自身の老後資金準備、節税対策 |
従業員 | 会社負担による退職金の積立 | 自助努力による老後資産形成と節税 |
制度活用の注意点と具体的対策
両制度には運用上の注意点もあります。中退共では掛金の滞納が退職金額に影響を与えるため、継続的な掛金の支払いが前提です。また、iDeCoではリスク商品も選べる一方で、元本割れのリスクも伴います。制度の選択と運用商品は、自身のライフステージや資金状況に応じて慎重に判断する必要があります。
iDeCoの商品には、定期預金、保険、投資信託などがあり、リスクとリターンが異なります。
商品タイプ | 安全性 | リターン | 向いている人 |
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定期預金 | 高 | 低 | 安定重視で元本割れを避けたい人 |
保険商品 | 中 | 中 | 運用しつつ保険も確保したい人 |
投資信託(株式) | 低 | 高 | 長期で積極的な運用を目指す人 |
まとめ
中小企業退職金共済とiDeCoは、立場や目的に応じて併用することで、老後の生活基盤を多層的に形成する手段となります。企業が中退共を導入することで従業員の安心と満足度を高め、自身はiDeCoで資産運用しながら将来に備える。このような設計は、個人と企業双方に利益をもたらします。
どちらか一方だけでは不足しがちな老後の備えも、両制度の活用でカバーできるのが大きな利点です。今後の人生設計をより確かなものにするためにも、制度の仕組みを理解し、自身に合った方法で実践していくことが重要です。情報をアップデートしながら、制度改正にも柔軟に対応していくことが、老後の安心につながります。