新人教育の場で頻繁に耳にする「OJT(On the Job Training)」。実務を通じて成長を促すこの手法は、うまく機能すれば高い効果を発揮します。しかし、任せきりや放置の状態が続くと、逆に人材育成の失敗や離職リスクを高める結果となります。本記事では、OJT放置のリスクとその具体的な対処方法について、実例を交えながら解説します。
OJTとは?
現場を通じた実践型の教育手法
OJTとは、職場での実務を通じて社員に必要な知識やスキルを習得させる教育方法のことです。研修室などで座学を行う「Off-JT(Off the Job Training)」とは異なり、日々の業務に直結したリアルな学びが得られる点が特徴です。
比較項目 | OJT | Off-JT |
---|---|---|
実施場所 | 職場現場(実務中) | 教育研修室や外部セミナー |
教育内容 | 業務スキル、対応力、現場判断力など | 理論、基礎知識、マネジメント理論など |
教える人 | 上司、先輩社員など現場の実務担当者 | 講師、外部トレーナー、社内研修担当者など |
メリット | 実務に直結、即戦力化しやすい、コストがかからない | 理解が深まりやすい、体系的な学習が可能 |
デメリット | 放置や属人的な指導、評価が曖昧になりやすい | 実践とのギャップが生まれやすい、コストや時間がかかる |
OJTは本来、指導者の明確な関与があってこそ効果を発揮しますが、近年は「OJT放置」と呼ばれる問題が増加傾向にあります。
OJT放置とは何か?
名ばかり教育に潜む見えないリスク
OJT放置とは、「OJTをしている」としながらも、実際には教育担当者が適切に関与せず、本人任せにしている状態のことを指します。主な原因とされるのは以下の通りです。
要因 | 解説 |
---|---|
指導者の多忙 | 教える余裕がなく、業務を振るだけで精一杯になってしまう |
指導経験の不足 | 指導者自身が教え方を知らず、「見て覚えろ」スタイルになりがち |
教育計画の未整備 | 何を教えるか、いつまでにどこまで達成するかの明確な計画がない |
組織の教育意識不足 | 教育の重要性が共有されておらず、育成の責任が曖昧になっている |
このような環境では、新人が「放置された」と感じ、早期離職のきっかけにもなりかねません。
OJT放置が引き起こす主なリスク
人材育成における失敗の連鎖
OJT放置が続くことで、以下のような具体的なリスクが生じます。
リスク項目 | 内容 |
---|---|
スキル習得の遅延 | 正しい知識や技術が身につかず、業務品質が低下 |
モチベーションの低下 | 「大事にされていない」と感じ、自信ややる気がなくなる |
離職率の上昇 | 教育不足に不満を持ち、入社間もなくして退職するケースが増える |
現場の負担増 | 教育が進まず、他の社員がカバーする負担が続くためチーム全体のパフォーマンスが下がる |
組織の信用失墜 | 育成失敗が続くと、「育てられない会社」として評判が悪化する可能性がある |
一度悪循環が始まると、人材確保や定着にも大きな支障をきたします。
OJT放置を防ぐための対処方法
指導体制と環境づくりがカギ
OJTを効果的に機能させるには、以下のような仕組みと行動が重要です。
対処法項目 | 解説 |
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OJT計画の事前策定 | 育成スケジュール、担当者、指導内容を文書化し、明確な育成フローを整備する |
指導者の研修実施 | 指導方法やフィードバックの仕方を学ぶ機会を提供し、教える力を育てる |
定期的な進捗確認 | OJTの進捗を週単位でレビューし、課題があれば早めに修正・サポートする |
メンター制度の導入 | 担当以外にも相談できる「第三者」を配置し、孤立や不満を感じさせない体制をつくる |
育成評価の仕組み構築 | 指導した側も評価対象とし、育成成果に対する責任とやりがいを与える |
単なる「同行」や「見守り」ではなく、育成としての関わりが求められるのがOJTの本質です。
まとめ
OJTは非常に効果的な育成手法である一方、正しく運用しなければ「放置」となり、逆効果になるリスクも孕んでいます。特に新入社員にとっては、最初の経験が今後の成長に大きく影響を与えるため、組織として「育てる責任」を明確に持つことが求められます。OJTを成功させるためには、計画と対話を欠かさず、全員で育成に取り組む文化づくりが重要です。