企業と求職者の双方にとって「内定」は採用活動の大きな節目ですが、内定辞退や取り消しをめぐるトラブルは少なくありません。法的なルールを知らずに進めると、企業は損害賠償のリスクを負い、求職者もキャリアに影響を受ける可能性があります。本記事では、内定の法的性質と、辞退・取り消しにおける注意点をわかりやすく解説します。
内定の法的な位置づけとは
内定=契約成立と見なされるケースがある
企業が求職者に対して出す「内定通知」は、実は単なる採用の意思表示ではなく、労働契約として法的効力を持つ場合があります。特に、採用内定通知書の交付や、入社日・労働条件の明記があると、事実上の雇用契約と見なされます。
この段階で労働契約が成立していると判断されると、企業が一方的に内定を取り消した場合、「解雇」に相当すると見なされ、労働契約法や判例による厳格な条件が適用されます。
状況 | 法的評価 |
---|---|
単なる口頭の内定 | 契約とはみなされない可能性あり |
書面通知+具体的条件提示 | 契約成立と見なされる場合が多い |
内定者が受諾した場合 | 契約成立が強く認められる |
内定辞退は自由にできるのか
原則として辞退は可能だが誠実な対応が求められる
内定を受けた後でも、求職者側が内定を辞退することは法律上自由に認められています。これは民法上の「契約自由の原則」に基づくものであり、たとえ労働契約が成立していたとしても、入社前であれば解約することが可能です。
ただし、辞退の仕方には社会的マナーが求められます。入社直前の辞退や連絡なしの無断辞退などは、企業に損害を与えることもあり、損害賠償請求に発展する可能性がゼロではありません。
辞退タイミング | 推奨対応 |
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内定通知直後 | 速やかに辞退の意思を丁寧に伝える |
入社直前 | 誠意ある説明を行い、損害発生に配慮する |
無断連絡 | 社会的信用を損なう行為で絶対に避けるべき |
内定取り消しが認められる条件とは
企業による取り消しには正当な理由が必要
企業側が一度出した内定を取り消すには、労働契約の「解約」に該当するため、正当な理由と社会通念上の相当性が求められます。たとえば以下のような事情がある場合、内定取り消しが法的に認められる可能性があります。
内定取り消しが認められる例 | 内容の説明 |
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経歴詐称 | 学歴や職歴、資格などを偽っていた |
犯罪行為の発覚 | 内定後に重大な犯罪歴が判明した場合など |
健康上の重大問題(業務遂行困難) | 入社後の業務に大きく支障をきたす健康問題が発覚した場合 |
経営悪化に伴う採用取りやめ | ただし、合理性と相当性が求められる |
それ以外の理由、たとえば「社内の方針が変わった」「上司が気に入らない」などでは取り消しは認められません。こうしたケースで不当に内定を取り消した場合、損害賠償請求の対象になる恐れがあります。
企業側のリスクと求職者側のリスク
当事者 | 主なリスク内容 |
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企業側 | 不当取り消しによる損害賠償責任、社会的信用の失墜 |
求職者側 | 無断辞退による信用喪失、ブラックリスト化の可能性 |
両者共通 | 曖昧な合意による認識違い、トラブルの長期化や裁判リスク |
内定をめぐる問題は「言った言わない」では済まない法的な問題になり得るため、書面や記録に残すことが重要です。
トラブルを防ぐための実践的対策
企業側ができること
- 採用内定通知書を明確に作成し、条件や留保事項を記載する
- 採用活動中に求職者とこまめなコミュニケーションを取る
- 内定の出し方を統一し、法的チェック体制を整える
求職者側ができること
- 内定の承諾・辞退は早めに、誠意をもって伝える
- ほかに内定を保有している場合も企業に対して配慮する
- 入社の意思が固まった段階で最終判断を行う
こうした配慮と手続きを踏むことで、双方にとって気持ちの良い採用活動が実現できます。
まとめ
内定は、単なる採用の意思表示ではなく、場合によっては法的な労働契約と見なされます。そのため、内定辞退も内定取り消しも、それぞれに法的・社会的な責任が伴います。
企業と求職者の双方が正確な知識と誠実な対応を心がけることで、無用なトラブルを回避し、良好な関係性の中で新たなスタートを切ることが可能となります。