従来の融資制度では、土地や建物などの「有形資産」に対して担保を設定するのが一般的でした。しかし近年では、知的財産や営業権などの「無形資産」にも注目が集まっており、企業価値全体を対象とした新たな担保制度「企業価値担保権」が制度化されました。本記事では、企業価値担保権の概要やメリット、制度のポイントについてわかりやすく解説します。
企業価値担保権とは?
無形資産を含めた“企業の総合力”に担保設定
企業価値担保権とは、企業が保有するさまざまな資産やノウハウを総合的に捉え、それらを一体的に担保とする新しい担保制度です。2024年の法改正により導入された制度で、伝統的な担保制度では評価が難しかった無形資産(ブランド力、顧客基盤、知的財産など)も含めた形で、企業全体の価値に対して担保を設定できるようになりました。
この制度により、資産が少ないスタートアップやベンチャー企業であっても、企業活動そのものの価値を元に資金調達が可能になります。
従来の担保との違い
比較項目 | 従来型担保制度 | 企業価値担保権 |
---|---|---|
担保の対象 | 不動産・動産などの有形資産 | 営業権・知的財産なども含む企業全体 |
担保設定の範囲 | 個別の資産に限定 | 企業の資産全体を包括 |
融資対象企業 | 既に資産を保有している企業が中心 | 無形資産を主とするベンチャー企業なども対象 |
企業価値担保権は、これまで担保にできなかった「事業の将来性」や「ブランド」などを評価し、金融機関が資金供給の判断材料とするための制度です。
制度導入の背景と目的
スタートアップ支援と資金調達の柔軟化
企業価値担保権制度の背景には、資産の少ない企業でも資金調達を可能にするという狙いがあります。特に、革新的な技術やサービスを提供するスタートアップは、創業当初は有形資産をほとんど保有していない場合が多く、融資を受けにくいという課題がありました。
この制度は、そうした企業が自己の成長性や無形資産を活かして資金を得られるように設計されています。日本のイノベーションを支えるための新たな金融支援策の一環として注目されています。
担保の対象となる企業価値の例
無形資産と有形資産の両方が評価対象
企業価値担保権の対象となる資産は、以下のように幅広い範囲にわたります。
- 知的財産(特許、商標、著作権など)
- 営業権(ブランド、顧客基盤など)
- 売掛債権、契約上の地位
- 在庫、設備などの有形資産
- ノウハウやビジネスモデル
これらを包括的に担保とすることで、従来では評価が難しかった企業の「将来性」や「競争力」も資金調達の材料になります。
導入によるメリットと留意点
企業と金融機関双方に新たな可能性
企業価値担保権制度の導入によるメリットは多岐にわたります。
- 担保設定により資金調達の可能性が拡大
- ベンチャー企業の成長を金融面から支援
- 担保評価の多様化により、柔軟な融資が可能
- 金融機関にとっても新たな融資先開拓のチャンス
一方で、企業価値の評価は難易度が高く、事業計画の信頼性や資産管理体制が問われます。また、担保実行の際の手続きや法的整理についても明確なルールが必要です。
制度活用のために求められる準備
信頼性の高い情報開示が鍵
企業価値担保権を活用するには、企業側に次のような準備が求められます。
- 資産の棚卸と詳細なリスト化(有形・無形)
- 定量・定性の両面からの企業価値評価資料
- 中長期の経営計画と売上見込みの提示
- ガバナンス体制の整備
これらの情報をもとに、金融機関は担保としての信頼性を評価し、融資判断を下します。したがって、透明性と計画性のある経営が重要になります。
今後の展望
企業価値担保権は普及するか?
企業価値担保権は、日本の金融市場にとって新しい概念であり、今後の実務への定着には時間がかかると考えられます。しかし、デジタル化やスタートアップ支援の流れのなかで、より多くの企業がこの制度を活用する可能性があります。
特に、知的財産を軸とする企業やDX推進を進める企業にとっては、大きな資金調達の手段となるでしょう。制度の活用と並行して、評価手法の高度化やガイドラインの整備も求められます。
まとめ
企業価値担保権は、従来の担保制度では評価されにくかった無形資産や将来価値を担保とする革新的な制度です。資産が少なくてもビジネスの可能性をもとに資金を得られるこの制度は、スタートアップをはじめとした新興企業にとって大きな追い風となります。
一方で、制度の活用には情報開示や事業計画の明確化といった準備も必要です。自社の価値を正しく伝えることで、新たな資金調達の道が開ける時代が始まっています。