企業売却は、経営者にとって一つの出口戦略として注目される選択肢です。後継者不在やライフプランの転換、あるいは新たなチャレンジのために、事業を第三者へ譲渡することは決して珍しくありません。とはいえ「うちの会社はいくらで売れるのか?」という相場感や、「高く売るにはどうすればよいのか?」という疑問を持つ方は多いはずです。本記事では、企業売却の相場の目安と、価値を高めて売却を成功させるためのポイントを解説します。
企業売却の相場とは
数値で見る「企業の値段」の基本
企業売却においては、明確な定価があるわけではありません。企業の価値は、事業内容や利益水準、将来性、業界の動向など多くの要素から総合的に判断されます。その中でも最もよく使われるのが「EBITDA倍率(イービットダー倍率)」という考え方です。
| 用語 | 内容 |
|---|---|
| EBITDA | 税引前利益+支払利息+減価償却費 |
| EBITDA倍率 | 売却価格 ÷ EBITDA(業界によって目安が異なる) |
一般的な中小企業の売却相場は、EBITDAの2倍〜5倍程度が一つの目安です。ただし、IT業界や成長性が高い分野では10倍を超える場合もあります。
業種別の売却相場の目安
業界によって評価基準に差がある
企業の業種によって、売却価格の基準には大きな違いがあります。以下は業種別の目安です。
| 業種 | 相場の目安(EBITDA倍率) | 特徴 |
|---|---|---|
| 飲食業 | 約1〜3倍 | 安定性重視、ブランド力が影響 |
| IT・SaaS | 約5〜10倍 | 成長性・顧客数が評価対象に |
| 製造業 | 約2〜5倍 | 技術力・取引先の安定性が鍵 |
| 小売業 | 約2〜4倍 | 在庫や立地、収益の安定性が影響 |
| 医療・介護 | 約3〜6倍 | 社会的需要と収益性が重視される |
このように、業種ごとに着目されるポイントが異なるため、自社の立ち位置と評価基準を知ることが重要です。
企業を高く売るためのポイント
「今の価値」より「将来の可能性」を伝える
企業を高く売却するためには、単に業績が良いだけでなく、「この会社を買うことで何が得られるのか」という視点が重要です。以下の点を意識することで評価額は高まります。
- 安定した収益モデルがあるか
- 後継者や組織体制が明確に整っているか
- 顧客基盤が広く、継続的な関係があるか
- 成長余地や市場の可能性があるか
- 会計処理や契約書類などの管理が整備されているか
買い手は「未来に価値があるか」を見て判断します。したがって、今後のビジョンや展望も資料として提示できるとより好印象です。
売却を成功させるための準備
時間をかけた計画と情報整理がカギ
企業売却は一朝一夕では進みません。事前準備として、次のような行動が重要です。
- 財務諸表や業績データの整理
- 社内のキーパーソンや引き継ぎ体制の確認
- 不要資産や負債の見直し
- 売却の目的を明確にする(資金化・事業承継・再チャレンジなど)
- 顧問税理士やM&A仲介業者との連携
売却先との交渉では、売却理由や譲渡後の関与の有無も問われます。誠実な情報開示が信頼と好条件につながります。
売却で使われる主な手法
株式譲渡と事業譲渡の違いを理解しよう
企業売却にはいくつかの手法がありますが、代表的なのは「株式譲渡」と「事業譲渡」です。
| 手法 | 概要 | 特徴 |
|---|---|---|
| 株式譲渡 | 株主が保有する株式を買い手に譲渡する方法 | 手続きが比較的簡単で、会社の契約や許認可が引き継がれる |
| 事業譲渡 | 特定の事業や資産のみを譲渡する方法 | 必要な部分だけを売買できるが、契約の引き継ぎに手間がかかる |
どちらを選ぶかは会社の状況や売却の目的によって異なるため、専門家と相談の上で決めるのが賢明です。
売却後の注意点
売却して終わりではない
企業を売却した後も、経営者にはさまざまな対応が求められます。以下は売却後に必要となる対応の一例です。
- 税務申告(譲渡所得税など)
- 関係先への通知と感謝の挨拶
- 競業避止義務やアフターサポートの確認
- 従業員の雇用維持に関する配慮
また、売却後に新たな事業や投資に挑戦するケースも多く、ライフプランの再設計も必要となります。
まとめ
企業の売却は、自社の価値を正確に把握し、適切に市場へ伝えることで成功に近づきます。相場を知るだけでなく、事前準備や買い手の視点を意識した交渉が重要です。経営者として最後まで責任ある判断を行うためにも、信頼できる専門家とともに段階的に進めましょう。売却は終わりではなく、新たなスタートの一歩です。


