金銭の貸し借りや損害賠償請求などに関係する「法定利率」と「約定利率」。この二つの利率は、契約書や請求書などの中に登場する重要な項目です。正しく理解していないと、無用なトラブルを招く可能性もあるため、法律や契約に関わる人々は知識として押さえておく必要があります。本記事では、法定利率の意味や約定利率との違い、そして活用上の注意点まで、わかりやすく解説します。
法定利率とは
法律によって定められた利率のこと
法定利率とは、民法により定められている利率のことで、主に金銭の支払いが遅れた場合の「遅延損害金」や、契約上利率が定められていない場合の「法定利息」として適用されます。利息に関する契約が存在しない場合でも、一定のルールに従って利息が発生することを法的に明確化する目的で設けられています。
かつては年5%で固定されていましたが、2020年4月の民法改正により変動制が導入され、現在では3年ごとに利率が見直される仕組みになりました。
法定利率の推移と仕組み
変動する利率の理解が不可欠
以下の表は、民法改正によって導入された法定利率の変遷および今後の見直しスケジュールを示したものです。
| 時期 | 法定利率(年利) |
|---|---|
| 改正前(2020年3月まで) | 5%(固定) |
| 2020年4月〜2023年3月 | 3%(初回改正) |
| 2023年4月〜2026年3月 | 3%(見直し後も据え置き) |
この仕組みにより、市場金利の動向を反映した柔軟な対応が可能となっています。
約定利率との違い
当事者同士が自由に決める利率
一方、約定利率とは、契約当事者が合意によって決定する利率のことです。たとえば、金銭消費貸借契約(お金を貸す契約)で、貸主と借主が「利率は年4%」と明記した場合、それが約定利率となります。
法定利率と約定利率の大きな違いは、「契約の有無」と「自由度」にあります。法定利率は法律で一律に適用されるのに対し、約定利率は契約内容次第で個別に決められます。
法定利率と約定利率の使い分け
適用場面に応じた判断が重要
両者の違いをしっかり把握することで、契約や請求の場面で適切な対応ができます。
| 比較項目 | 法定利率 | 約定利率 |
|---|---|---|
| 根拠 | 民法などの法律 | 契約書などの合意 |
| 利率 | 年3%(変動) | 任意(上限あり) |
| 適用される場面 | 契約がない場合 | 契約がある場合 |
法定利率はあくまで「契約がない場合の予備的措置」として用いられる点がポイントです。
遅延損害金と利率の関係
利率によって請求金額が大きく変わる
たとえば、100万円の支払いが1年間遅れた場合、年3%の法定利率なら3万円、約定利率が年6%なら6万円の遅延損害金を請求できます。このように利率によって金額に大きな違いが出るため、契約時にしっかり取り決めておくことが肝心です。
また、利率が高すぎる場合には「利息制限法」の制限に抵触する可能性もあるため注意が必要です。
民法改正により導入された「変動利率制」
時代に即した制度への転換
2020年4月からの民法改正で、法定利率は3年ごとの見直しが義務付けられました。これは長年固定されていた年5%の利率が実態と乖離していたためであり、市場金利との連動性を持たせたことにより、法制度としての柔軟性が高まりました。
変動利率の採用により、景気変動に応じたバランスの取れた制度運用が可能になった点は、企業にとっても個人にとっても大きなメリットです。
利率に関するトラブル事例とその対策
よくある問題と予防策を知っておこう
法定利率と約定利率に関しては、次のようなトラブルが発生することがあります。
- 契約書に利率の記載がなく、請求時に揉めた
- 法定利率で請求していたが、当事者が約定利率と誤解していた
- 約定利率が利息制限法の上限を超えていた
これらの問題を防ぐには、以下の対策が有効です。
- 契約書には必ず利率を明記する
- 法改正の内容を定期的に確認する
- 実務では専門家に相談しながら進める
法定利率と約定利率を正しく活用するために
実務に活かす利率の理解と運用
法定利率と約定利率は、似ているようで根本的に異なる概念です。特に企業経営や個人事業においては、契約トラブルの予防策としてこれらの違いを正確に理解しておくことが求められます。
また、金銭債権や遅延損害金の発生時には、どの利率を根拠にして計算するのかを明確にしておく必要があります。
まとめ
法定利率は法律で定められた利率であり、約定利率は契約で決める利率です。契約がある場合は約定利率が優先されますが、明記がなければ法定利率が適用されます。民法改正により、法定利率は変動制となり、今後も社会経済の変化に応じた見直しが予定されています。契約書の作成時には利率の記載を怠らず、適切な利率の運用を行うことが、トラブルの回避と円滑な債権回収の鍵となるでしょう。


