企業が長期的に存続していくためには、次の世代への「事業承継」が避けて通れません。とくに中小企業やスタートアップにおいては、経営者の交代は事業の安定性に大きく影響を及ぼす要素です。この記事では、事業承継の基本から、スムーズに引き継ぐためのポイントまでを分かりやすく整理して解説します。
事業承継とは何か?基本の理解からはじめよう
経営のバトンを渡す重要なプロセス
事業承継とは、現経営者から後継者へ、会社の経営権・資産・ノウハウなどを引き継ぐ一連のプロセスのことを指します。単なる代表者の交代ではなく、「企業価値」や「顧客・従業員との信頼関係」を含めて引き継ぐことが目的です。
事業承継の対象になるものは、以下の通り多岐にわたります。
| 承継対象 | 内容の例 |
|---|---|
| 人的資産 | 経営理念、営業ノウハウ、取引先との信頼関係など |
| 有形・無形資産 | 設備、不動産、知的財産(商標・特許)、株式、事業資金 |
| 組織体制 | 経営者の役割、従業員の配置、人材育成体制 |
企業の規模や業種にかかわらず、いかにこのプロセスを計画的に進めるかが、会社の未来を左右します。
事業承継の主な3つの方法
事業承継には主に3つのパターンがあります。それぞれの特徴を以下にまとめます。
- 親族内承継:子や親族に会社を継がせる一般的な方法
- 社内承継:役員や従業員など、内部の人物に引き継ぐ
- 社外承継(M&A):第三者に会社を売却・譲渡する形
それぞれの方式にメリットとデメリットがあり、自社の状況に応じて選定が必要です。
事業承継が注目されている理由
高齢化と後継者不在が加速するなかで
中小企業庁の調査によると、経営者の高齢化が急速に進んでおり、60代・70代の経営者が多くを占めています。しかし、その一方で「後継者が決まっていない」という企業が多いのも実情です。
こうした背景から、近年は事業承継が国をあげての重要課題となっており、支援制度や税制優遇の整備も進められています。
放置すると企業存続の危機に直結
事業承継を先送りにしてしまうと、以下のようなリスクが生じます。
- 後継者がいないまま経営者が引退・他界
- 顧客や従業員が不安定化し、取引先が離れる
- 相続税の支払いや資産分割で経営に支障が出る
こうしたトラブルは、企業のブランドや信用を大きく毀損するおそれがあるため、早期の準備が不可欠です。
スムーズな事業承継のための準備とは
事業承継計画の策定がカギを握る
事業承継の成功には、少なくとも3年から5年程度の準備期間が必要だといわれています。その際、以下のようなステップに沿って計画を立てていくことが大切です。
- 承継の時期と候補者の選定
- 自社株や資産の整理と評価
- 社内外への承継内容の共有
- 税務・法務の確認と専門家との連携
一連の計画を「事業承継計画書」として文書化することで、関係者の理解も得やすくなります。
専門家との連携がトラブル回避につながる
事業承継は、経営だけでなく法律・税金・相続など多岐にわたる知識が求められます。そのため、以下のような専門家と連携しながら進めるのが現実的です。
- 税理士:株式の評価や相続税対策
- 弁護士:契約書や遺言などの法的整備
- 社労士:従業員対応や労務体制の整理
- M&A仲介:第三者承継を希望する場合
適切なサポート体制を構築することで、承継後のトラブルを未然に防ぎやすくなります。
起業家や若手経営者が知っておくべきポイント
事業承継は「いつか」ではなく「今から」
起業したばかりの経営者にとって、事業承継は遠い未来の話に思えるかもしれません。しかし、事業承継はある日突然必要になることもあり、「今から準備しておく」ことが安定経営への近道です。
以下のような習慣を日頃から意識しておくと、後継者がスムーズに経営を引き継げる環境が整いやすくなります。
- 社内で経営理念や業務プロセスを明文化する
- 従業員の育成に力を入れる
- 自社の財務状況を定期的に見直す
承継先が未定でもまずは自社の棚卸しから
後継者がまだ見つかっていない企業でも、できる準備はあります。その一つが「自社の棚卸し」です。具体的には、以下のような情報を整理しておくことが重要です。
| 棚卸し項目 | 内容の例 |
|---|---|
| 組織と人材 | 誰がどの業務を担っているかの明確化 |
| 財務と資産 | 自社株の構成、不動産や設備の把握 |
| 顧客・取引先情報 | メインの顧客とその関係性、主要契約の内容 |
これらを整理しておくことで、承継時の混乱を防ぎ、会社の信用を維持しやすくなります。
まとめ
事業承継は、会社の未来をつなぐための重要な経営課題です。特に中小企業や創業間もない企業にとって、経営者不在による混乱や存続危機は現実的なリスクとなり得ます。
だからこそ、経営者自身が「いまのうちからできること」に着手する姿勢が求められます。適切な方法で、必要なタイミングでバトンを渡せるよう、長期的視点で事業承継に向き合っていきましょう。


