知識だけでは身につかない「実践的なスキル」や「考える力」を育てるうえで注目されているのが「経験学習」です。業務の中での成功や失敗をただの出来事で終わらせず、学びへと転換する仕組みを作ることが、個人と組織の成長につながります。この記事では、経験学習の基本概念や学びを深めるためのポイントについてわかりやすく解説します。
経験学習とは何か
経験学習とは、実際の体験を通じて得た気づきや反省をもとに、行動を振り返りながら新たな知識やスキルを身につけていく学習方法です。講義型の研修などとは異なり、あくまで「自らの体験」が中心にあるのが特徴です。
仕事の中で起きた出来事に対して、何を感じ、どう考え、次にどう行動するかを整理することで、単なる繰り返しではなく「質の高い学び」に変えることができます。
経験学習の4つのプロセス
経験学習は、アメリカの教育学者コルブが提唱した「経験学習モデル(Kolb’s Experiential Learning Model)」に基づいています。学びは以下の4段階を繰り返すことで深まるとされています。
| プロセス | 内容 |
|---|---|
| 具体的経験 | 実際の業務や活動を通して体験する |
| 内省的観察 | その体験を振り返り、どのような感情や考えがあったかを整理する |
| 抽象的概念化 | 気づきをもとに、自分なりの理論やルールにまとめる |
| 能動的実験 | 学んだことをもとに、次の行動に移す |
この4つのプロセスを繰り返すことで、経験が知識として蓄積され、より柔軟で応用力のある行動が可能になります。
経験学習を促進するためのポイント
経験学習を実践の中で効果的に機能させるためには、いくつかのポイントを意識することが大切です。
振り返りの時間を意図的に作る
多忙な日常の中では、「やりっぱなし」になってしまうことが多くあります。しかし、経験学習において重要なのは「振り返ること」です。1日の終わりやプロジェクトの節目に、意識的に振り返る時間を設けることで、経験の質が変わります。
質問を活用して深掘りする
振り返りを形骸化させないためには、自問自答を繰り返すことが効果的です。以下のような問いが役立ちます。
- 何がうまくいったのか
- どこに課題があったのか
- なぜそのような行動をとったのか
- 次はどうすればよいのか
これらの問いを通じて、体験をより深く理解し、次に生かせる学びに変えることができます。
組織で経験学習を活用するメリット
個人の学びにとどまらず、組織全体で経験学習を意識することで、多くのメリットが得られます。
| メリット | 内容 |
|---|---|
| 組織に学習する文化が根づく | 失敗や成功を共有し合うことで、成長志向の職場風土が育つ |
| 自律的な行動が増える | 自ら考えて行動する社員が育ち、上司の指示を待たずに動けるようになる |
| ノウハウが蓄積・共有される | 振り返りや報告を通じて、経験が形式知として共有されやすくなる |
経験学習が浸透した組織は、変化への適応力や改善力も高まりやすくなります。
経験学習の定着を妨げる要因と対策
経験学習がうまく定着しない原因の多くは、「忙しさ」と「振り返りの軽視」にあります。次の点を意識することで、学びの習慣化が可能になります。
- 振り返りを日報や週報に組み込み、業務の一部とする
- 失敗を責めるのではなく、改善に向けた話し合いの場をつくる
- 研修や1on1の中に「経験の共有」を取り入れる
振り返りを「業務と切り離した作業」と考えるのではなく、「成長の一部」として位置づけることが重要です。
まとめ
経験学習は、実際の体験から学びを引き出すことで、成長のスピードと質を高める学習法です。個人が主体的に気づき、改善し続けることで、組織全体のパフォーマンスも向上していきます。大切なのは、経験を放置せず、言語化・概念化・行動化する習慣を持つことです。明日からできる「小さな振り返り」から、経験学習を始めてみましょう。


