企業の再編や経営戦略の中で頻繁に登場する「事業譲渡」と「会社分割」。どちらも事業を移転させる手法ですが、その法的手続きや影響範囲、メリット・デメリットには明確な違いがあります。適切に制度を使い分けることができれば、リスクを抑えながら柔軟な組織運営が可能になります。本記事では、事業譲渡と会社分割の基本的な違い、具体的な比較ポイント、活用時の注意点についてわかりやすく解説します。
事業譲渡とは?
企業の一部または全部の事業を他社へ移転する手法
事業譲渡とは、ある会社が自社の事業(商品、サービス、ノウハウ、資産など)を、契約に基づいて他社に有償または無償で譲り渡す取引形態のことです。事業ごとに売却する内容を選択できる柔軟性があり、企業再編や撤退戦略の一環としてよく使われます。
項目 | 内容 |
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契約の相手 | 譲渡先企業との一対一の契約 |
対象範囲 | 譲渡対象の事業・資産を自由に選択可能 |
従業員の扱い | 原則として個別同意が必要(譲渡先への転籍には本人同意が必要) |
法的根拠 | 会社法ではなく民法上の「契約」に基づいて行われる |
会社分割とは?
会社法に基づいて事業を別会社へ移転する組織再編手法
会社分割とは、会社が営んでいる事業の一部または全部を、会社法に基づく分割手続きにより新設会社または他の既存会社へ移す方法です。分割には「吸収分割」と「新設分割」があります。
分割の種類 | 内容 |
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吸収分割 | 分割会社の事業を既存会社に承継させる方式 |
新設分割 | 分割会社が新たに設立する会社に事業を承継させる方式 |
従業員の扱い | 対象従業員の承継に本人同意は不要(労働契約承継法に基づく) |
法的根拠 | 会社法第2編第8章に基づく「組織再編行為」として手続きが定められている |
事業譲渡と会社分割の違い
比較項目 | 事業譲渡 | 会社分割 |
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法的手続き | 民法上の契約 | 会社法上の再編手続 |
対象の選択自由度 | 自由に選べる | 一定の事業単位での承継が基本 |
従業員の転籍 | 本人の同意が必要 | 同意不要(ただし、労働条件の不利益変更は不可) |
手続きのスピード | 比較的早く完了可能 | 登記や公告などが必要で、手続きはやや煩雑 |
取引の透明性 | 株主総会の特別決議が必要(一定の条件を超える場合) | 分割計画の公告義務があり、対外的な透明性が高い |
活用されるシーン | 一部事業の売却、撤退、資産の現金化など | グループ内再編、新会社設立、非中核事業の切り出しなど |
どちらを選ぶべきか?判断ポイント
判断基準 | 推奨される方法 | 解説 |
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事業の一部だけ売却したい | 事業譲渡 | 売却対象を柔軟に選べ、買い手のニーズに応じた取引が可能 |
グループ再編を目的とする | 会社分割 | 組織単位での承継が前提となるため、グループ内再編に適している |
スピード重視 | 事業譲渡 | 契約ベースで完結し、株主総会決議を省略できる場合もある |
従業員を含めた承継が必要 | 会社分割 | 労働契約承継法により、同意不要で雇用をスムーズに引き継げる |
注意すべき法律・手続きのポイント
区分 | 注意点 |
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事業譲渡の場合 | 債権・債務、契約、知的財産などの個別移転手続きが必要。従業員の転籍には個別同意が必須。 |
会社分割の場合 | 債権者保護手続き、公告義務、登記義務が発生。取締役会や株主総会の決議も必要。 |
税務面の違い | 譲渡益に課税が発生する事業譲渡に対し、会社分割は税制適格要件を満たせば非課税で行える場合もある |
まとめ
事業譲渡と会社分割は、いずれも事業の移転を目的とした手法ですが、法的性質や実務上の運用に大きな違いがあります。譲渡の柔軟性とスピードを求めるなら事業譲渡、雇用継続や組織単位での承継を重視するなら会社分割が適しています。目的や状況に応じて適切な手法を選択することが、成功する企業再編の第一歩です。