人材育成に取り組む企業が活用できる「人への投資促進コース(人材開発支援助成金)」のなかでも、定額制訓練は費用の予測がしやすく手続きも簡便です。本記事では制度の概要、助成内容、対象者、申請の流れを詳しく紹介し、初めての企業でも確実に申請できるようわかりやすくまとめました。
人への投資促進コース(人材開発支援助成金)とは?
「人への投資促進コース」は、厚生労働省が推進する「人材開発支援助成金」の一部であり、企業が自社の人材を育成するための訓練を実施する際に、その費用の一部を国が助成する制度です。中小企業にとっては、限られた資源の中で人材育成を推進するうえで大きな支えとなります。この制度は、少子高齢化や労働力不足といった社会課題に対応する施策のひとつとして、国全体で取り組まれています。
助成の対象となる訓練は、座学形式(OFF-JT)で、職業能力の開発や向上を目的としたものである必要があります。また、対象となる企業は、雇用保険適用事業所であり、事前に訓練計画を届け出ていることが条件です。従業員が自律的にキャリアを形成できるよう支援するだけでなく、企業の即戦力化、人材の定着促進にも寄与します。
国の方針としては、「人的資本経営」を企業が実践できるよう、制度の柔軟性を高め、利便性を重視した支援策として再整備が進められており、令和6年度からは本コースにおける定額制訓練の内容もより明確になっています。
定額制訓練の特徴と仕組み
定額制訓練は、あらかじめ設定された金額で支給が行われる助成方式であり、実費精算型に比べて手続きが簡素化されている点が大きな特徴です。企業側は、助成される金額が明確にわかっているため、訓練実施の可否判断や予算編成がしやすくなります。とくに中小企業にとっては、会計処理の透明性や人事部門の負担軽減にもつながります。
訓練の助成は、経費と賃金の2本立てです。たとえば、中小企業における経費助成は1時間あたり1,200円~1,800円、賃金助成は同じく760円~960円が支給されます。大企業の場合はやや低い水準となっており、制度は中小企業の支援を重視して設計されています。これらの金額は毎年度見直されるため、実施前に最新情報の確認が不可欠です。
助成対象となる訓練は、厚生労働大臣が定めた「職業訓練分類表」に基づき判定され、業種や内容に応じた詳細な基準があります。マナー研修やスキルアップ講座、デジタルスキル育成、さらには生産性向上を目的とした専門研修など、幅広いテーマが対象です。
対象となる訓練・企業・従業員の条件
制度を活用するには、企業・訓練内容・受講者のすべてが以下の条件を満たす必要があります。概要は次の表にまとめました。
対象区分 | 条件 |
---|---|
企業 | 雇用保険適用事業所であること。事前に訓練計画の届け出を済ませていること。 |
訓練内容 | OFF-JT(座学形式)であり、一定時間以上の訓練であること。指定訓練に該当していること。 |
従業員 | 雇用保険被保険者であり、訓練対象として指定された社員であること。 |
注意が必要なのは、パートタイマーやアルバイトのうち、一部は対象とならないケースがある点です。また、派遣社員や業務委託契約者は原則として助成対象外となります。訓練のカリキュラム内容や提供機関が適正でなければ支給されないこともあるため、事前に労働局との相談をおすすめします。
助成金の金額・支給要件
助成金は、企業が支払った訓練費用および訓練実施中の賃金に対して支給されます。以下は、主要な支給額の一覧です。
区分 | 経費助成(1時間あたり) | 賃金助成(1時間あたり) |
---|---|---|
中小企業 | 1,200円〜1,800円 | 760円〜960円 |
大企業 | 800円〜1,200円 | 380円〜480円 |
上記の金額は、訓練内容や実施方法により異なる場合があるため、厚生労働省が発行するガイドラインや事業主向けの案内資料で最新情報を確認する必要があります。なお、経費助成には講師費用や教材費も含まれますが、宴会費や交通費などは助成対象外です。
助成申請には、訓練前後の手続きが伴うため、内部で申請フローを整備しておくことが望まれます。労働局への相談を通じて、トラブルのない申請が可能になります。
申請手続きと必要書類の流れ
訓練実施の前後には、下記のような段階を踏んで手続きを行います。
- 事前準備
- 訓練計画届の提出(原則として訓練開始の1か月前まで)
- 対象者の確定と訓練機関の選定
- 訓練実施中
- 出席簿や写真記録などの証拠資料を適切に保管
- 訓練内容の記録と進捗管理
- 訓練後の申請
- 実績報告書、申請書、賃金証明、経費証憑の提出
- 支給審査後、助成金の振込
訓練期間中における記録の不備や、対象者の誤登録などがあった場合、助成金が不支給となるケースもあります。そのため、担当者は全プロセスの進行管理を的確に行う必要があります。
よくある質問と注意点
企業が制度を活用するにあたり、しばしば次のような疑問が寄せられます。
質問内容 | 回答 |
---|---|
他の助成金との併用は可能か? | 同一経費に対する二重助成は不可。制度ごとの支給範囲を確認。 |
eラーニングは対象か? | 原則として対面型訓練が対象。eラーニングは要件を満たす場合のみ対象。 |
申請回数に制限はあるか? | 年間上限や1人当たりの訓練時間制限があるため、計画的な申請が必要。 |
注意点としては、「訓練」として認められない業務連絡や一般ミーティングなどを誤って申請すると、不支給対象になることです。定義をしっかり確認し、該当要件を事前に満たしておくことが不可欠です。
活用事例と企業への効果
ある中小製造業では、若手社員に対してCADスキル向上の訓練を実施し、本制度を活用。訓練前に比べて現場対応力が向上し、設備トラブルへの迅速な対応が可能になりました。結果として、月次の修理コストを20%削減できたという成果を挙げています。
また、サービス業界では、接遇研修に制度を導入し、顧客満足度アンケートでの評価が平均3.2から4.1へ上昇した事例があります。このように、制度をうまく活用することで、単なるコスト削減にとどまらず、企業価値の向上にもつながります。
社内体制の整備と成功のポイント
制度の恩恵を最大限に受けるためには、企業内の体制整備が必要です。訓練の目的や内容を人事・現場双方で共有し、事前にマニュアル化しておくことが推奨されます。さらに、制度に精通した担当者が定期的に研修や説明会に参加し、知識を更新していくことも、制度活用の精度を高めるポイントです。
まとめ
人材開発支援助成金の内容は年度ごとに改正される可能性があり、直近では令和6年度より本コースが再編成され、定額制訓練も要件が一部見直されました。企業は制度を活用する前に、厚生労働省のホームページや労働局の情報をこまめにチェックする必要があります。
この制度は「人への投資」を通じて、企業の競争力を底上げするための有力な支援策です。人的資本経営の第一歩として、本制度を積極的に活用してみてはいかがでしょうか。