キャリアアップ助成金(正社員化コース)

キャリアアップ助成金

キャリアアップ助成金(正社員化コース)は、非正規で働く従業員(有期・パート・派遣など)を正社員に登用した事業主に支給される助成金です。

厚生労働省が実施する制度で、目的は「非正規雇用の処遇改善」と「安定した雇用の確保」にあります。

◆制度の概要

この助成金は、次のいずれかの転換を行った場合に支給されます。

有期雇用 → 正社員

無期雇用 → 正社員

派遣労働者 → 派遣先企業で正社員

いずれのケースでも、転換後に賃金を3%以上アップさせることなど、いくつかの条件を満たす必要があります。

支給額の目安(令和7年度)

転換区分             中小企業             大企業

有期 → 正社員  40万円  30万円

無期 → 正社員  20万円  15万円

重点支援対象者(※)     各額×2期(例:80万円)            各額×2期(例:60万円)

※重点支援対象者:雇用3年以上、または過去5年間に正社員歴が1年以下など、特に安定した雇用が求められる人材。

◆対象となる事業主の条件

・雇用保険の適用事業所であること

・キャリアアップ計画書を転換前に労働局へ提出していること

・労働条件通知書・賃金台帳・出勤簿などを整備していること

・キャリアアップ管理者を事業所ごとに選任していること

◆対象となる労働者の条件

・助成対象となるのは、以下の条件を満たす従業員です。

・正社員とは異なる就業規則・給与体系で6か月以上勤務している

・採用時点で「正社員登用を約束されていない」

・正社員化の前日から3年以内に、同一企業または関連会社で正社員だったことがない

◆「正社員」として認められるための条件

・単に「無期雇用」であればよいわけではありません。

長期雇用を前提とした処遇(昇給・賞与・退職金など)が適用されていることが必要です。

・昇給制度があること賞与または退職金制度があること(どちらか一方でも可)

・就業規則にこれらの制度が明記され、実際に運用されていること

なお、退職金制度として「企業型確定拠出年金(選択型を含む)」は対象となりますが、iDeCoやiDeCoプラスは対象外です。

◆多様な正社員も対象(条件付き)

・勤務地限定・職務限定・短時間正社員などの「多様な正社員」も助成対象です。

ただし、以下のようなケースでは対象外になります。

・正社員は月給制、多様な正社員は時給制

・賞与や退職金の算定方法が異なる

・休暇制度(例:夏季休暇・特別休暇)に差がある

要するに、「名称が異なっても、労働条件の中身が正社員と同等」である必要があります。

◆シフト勤務の注意点

シフト制で勤務する正社員を登用する場合、

「週所定労働時間が正社員と同等」であることを就業規則や労働協約で明記しておく必要があります。

たとえば、「正社員の所定労働時間は週36〜40時間とする」と記載されていれば対象となる場合があります。

◆加算措置(制度を整備した場合)

・正社員転換制度を新たに設けた場合

 中小企業:+20万円 / 大企業:+15万円

・多様な正社員制度を新たに設けた場合

 中小企業:+40万円 / 大企業:+30万円

※加算が受けられるのは「整備後に最初に転換した1人目」のみです。

同じ事業所で複数制度を新設しても、加算は1回限りです。

◆派遣労働者の場合の取扱い

派遣社員が派遣先企業に直接雇用で正社員として採用された場合に対象となります。

派遣元で正社員に転換し、引き続き派遣業務を続けるケースは対象外です。

また、派遣受入期間の上限(いわゆる「抵触日」)を過ぎてからの転換も支給対象外となります。

◆賃金3%アップの注意点

賃金比較は「転換前6か月」と「転換後6か月」で行います。

ただし、以下の手当は賃金に含められません。

・通勤手当・住宅手当・燃料手当など(実費補填)

・歩合給・精皆勤手当・時間外手当(固定残業代含む)など(変動的手当)

・賞与

転換時の基本給アップや手当新設で「実質的な3%以上の増加」が確認できることが必要です。

◆申請手続きの流れ(実務ポイント)

1.転換前にキャリアアップ計画書を労働局へ提出

2.正社員転換後、6か月間の勤務・賃金支払いを実施

3.賃金支給日の翌日から2か月以内に申請(期限厳守)

4.必要書類:

 - 雇用契約書・労働条件通知書

 - 出勤簿・賃金台帳

 - 就業規則・キャリアアップ計画書

 - 支給申請書・支給要件確認申立書など

電子申請も可能ですが、GビズIDの取得が必要です。

計画書を紙で提出した場合は、電子での支給申請はできません。

◆実務上のアドバイス(社労士視点)

・計画書は「転換前」に必ず提出(遡及不可)

・就業規則に「正社員転換制度」を明記しておくこと

・賃金台帳・出勤簿・契約書は6か月分を正確に保管

・「賞与・退職金・昇給」のいずれかを確認できるよう制度化すること

・離職者が多い職場では、雇止め(事業主都合離職)があると不支給のリスクがあるため注意

◆まとめ

キャリアアップ助成金(正社員化コース)は、「非正規から正社員への登用」を支援する実践的な助成制度です。

単なる制度利用ではなく、就業規則の整備・賃金体系の見直し・人材育成とセットで進めることが重要です。

制度を正しく理解し、適切な手順で進めれば、企業にとっても従業員にとっても「働き方の安定」と「人材定着」の両方を実現できます。

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