働き方改革や柔軟な雇用形態の広がりにより、「所定労働時間」という言葉を目にする機会が増えました。しかし、正確にその意味を理解している人は意外と少ないかもしれません。労働条件や給与計算、残業の基準にも関わるこの言葉の定義を知ることは、働くうえでとても重要です。本記事では、所定労働時間の意味や法定労働時間との違い、雇用形態ごとの違いについてわかりやすく解説します。
所定労働時間とは何か?
企業が就業規則で定めた労働時間
所定労働時間とは、会社が定めた1日の労働時間および週の労働時間を指します。これは、労働契約書や就業規則などで明示されており、従業員が通常勤務する時間帯の基準となるものです。
たとえば、「午前9時から午後6時まで(休憩1時間含む)」という就業時間がある場合、所定労働時間は1日8時間となります。
法定労働時間との違い
法律上の上限と企業独自の設定の違い
混同されやすい言葉に「法定労働時間」がありますが、これは労働基準法で定められた労働時間の上限を指します。
| 項目 | 所定労働時間 | 法定労働時間 |
|---|---|---|
| 根拠 | 就業規則や雇用契約 | 労働基準法 |
| 内容 | 会社が自由に定める勤務時間 | 原則1日8時間、週40時間が上限 |
| 超過時の扱い | 残業とはならない(範囲内) | 超過した場合は残業として扱われる |
このように、所定労働時間はあくまで会社ごとの基準であり、法定労働時間を超えた場合は、割増賃金などの労働法上の制約が発生します。
雇用形態ごとの所定労働時間の違い
働き方によって時間数や勤務日数が異なる
雇用形態によって所定労働時間の設定は異なります。以下に代表的な雇用形態ごとの特徴をまとめました。
| 雇用形態 | 所定労働時間の例 |
|---|---|
| 正社員 | 1日8時間、週5日勤務が基本 |
| 契約社員 | 正社員と同様の時間設定が多い |
| パートタイマー | 1日3〜6時間など短時間労働が中心 |
| アルバイト | 曜日や時間帯を限定して働くことが多い |
とくにパートやアルバイトは、本人の希望や業務の繁閑によって柔軟に設定されることが多く、同じ職場でも所定労働時間が個別に異なる場合があります。
所定労働時間の管理が必要な理由
トラブル防止と働きやすい環境づくりに直結
所定労働時間を明確にしておくことには、次のような重要な意味があります。
- 残業代の基準となる時間が明確になる
- 社員の勤務状況や健康管理の基準になる
- トラブルや労使紛争を未然に防げる
- フレックスタイムや時短勤務など柔軟な制度の導入がしやすくなる
これにより、働く側と雇う側の双方にとって納得できる労働環境を整えることが可能になります。
所定労働時間と残業の関係
超えた時間がすべて残業とは限らない
残業は、法定労働時間を超えた勤務に対して支払われるものです。一方、所定労働時間を超えても法定内であれば、割増賃金の対象とならないケースがあります。
たとえば、所定労働時間が1日7時間の場合、8時間までの勤務は「所定外労働」にはなりますが、法定外労働とはならず、残業代の支払い義務が生じない可能性があります。
この区別を正確に理解することが、給与トラブルの防止につながります。
フレックスタイムや変形労働時間制との違い
時間管理の仕組みが異なる制度との違いを理解
フレックスタイム制や変形労働時間制では、所定労働時間の概念も柔軟に運用されます。
- フレックスタイム制では、1か月単位で所定労働時間を調整可能
- 変形労働時間制では、週によって所定労働時間が変動することもある
こうした制度では「1日あたり」ではなく、「期間あたり」で勤務時間を管理するため、通常の所定労働時間とは考え方が異なります。
労働者が知っておくべきポイント
働く前にしっかりと条件を確認しよう
所定労働時間は、就職・転職時に必ず確認しておくべき重要項目です。以下のような点を事前に把握しておきましょう。
- 契約書や就業規則に明記された労働時間
- 休憩時間や休日の取り扱い
- 残業の有無とその扱い
これにより、自分のライフスタイルに合った働き方ができるかを判断しやすくなり、入社後のトラブルも防げます。
まとめ
所定労働時間は、企業が独自に設定する勤務時間の基準であり、給与計算や労働管理の根幹をなす非常に重要な要素です。法定労働時間との違いや、雇用形態ごとの変化を理解することで、労働環境に対する理解が深まります。
働く側にとっては、自身の働き方や健康管理に直結する要素でもあるため、就職・転職時は必ず確認しておきましょう。企業側も、明確な所定労働時間の設定と管理によって、信頼される職場づくりを進めることができます。

