企業の価値を測る指標として「人」が注目される中、国際的なガイドラインであるISO30414が注目を集めています。人的資本の情報開示が世界的に求められている今、どのような対応が必要なのでしょうか。本記事では、ISO30414の概要から開示の目的、企業に求められる視点について詳しく解説します。
ISO30414とは
人的資本の情報を数値で評価するための国際指標
ISO30414とは、「人的資本の情報開示に関する国際ガイドライン」であり、企業が自社の人材に関する情報を定量的に評価・開示するための枠組みです。2018年に国際標準化機構(ISO)によって制定されました。
この規格の目的は、企業が「どのような人材を」「どのように活用しているか」を明確にし、ステークホルダーに対して透明性のある説明責任を果たすことです。特に上場企業やグローバル企業においては、投資家や株主から人的資本の質・量・成長性についての情報開示が強く求められるようになっています。
以下はISO30414で評価される代表的なカテゴリです。
| 評価項目 | 内容例 |
|---|---|
| リーダーシップ | 組織文化、ダイバーシティ、価値観の共有状況 |
| エンゲージメント | 従業員満足度、ロイヤルティ |
| 能力開発 | 教育投資額、トレーニング参加率 |
| 組織構造と流動性 | 離職率、内部登用率 |
| 多様性とインクルージョン | 男女比率、障がい者雇用率 |
このように、人的資本に関する情報を多角的に把握し、社会や投資家に提示することがISO30414の大きな意義です。
人的資本情報開示が求められる背景
企業価値の評価軸が「人」へとシフトしている
人的資本の情報開示が求められるようになった背景には、経済の変化とともに、企業価値を構成する要素が「モノ」や「カネ」から「ヒト」へとシフトしている流れがあります。特に知識集約型の産業では、人材のスキルや組織文化が競争優位性の鍵を握ります。
また、ESG投資や人的資本経営の浸透により、次のような要因から人的資本の定量的評価が急務となっています。
・従業員のエンゲージメントが業績に直結する
・ダイバーシティ推進がイノベーション創出に影響する
・人的リスク(離職・ハラスメント)が企業評価に影響する
・人的投資の回収性を可視化したいという投資家ニーズの高まり
これまで人的資本は「見えにくい資産」でしたが、今や非財務情報として積極的に評価されるようになっています。
ISO30414における情報開示のメリット
信頼性と評価向上の両立を実現
ISO30414に準拠した情報開示を行うことで、企業は次のようなメリットを享受できます。
| メリット | 内容 |
|---|---|
| 投資家からの信頼 | 経営の透明性が高まり、評価対象としての魅力が増す |
| 組織の自己理解 | 社内データを通じて、自社の人材状況を客観視できる |
| 従業員エンゲージメント向上 | 情報の開示が従業員との信頼関係強化につながる |
| ガバナンス強化 | 人材戦略と経営戦略を統合的に管理できるようになる |
人的資本の情報を開示することは、単に対外的なアピールではなく、企業の経営基盤を見直す契機にもなります。自社の強みや課題を再認識し、戦略的な人材投資へとつなげるための重要な一歩といえます。
ISO30414に沿った人的資本情報開示のステップ
現状の可視化から外部開示までの流れ
ISO30414に基づく人的資本の情報開示は、一度に完成させるものではありません。次のような段階を踏んで、継続的に改善していくことが重要です。
・ステップ1:評価指標の選定と社内における基準の明確化
・ステップ2:各部門からのデータ収集と整備
・ステップ3:可視化されたデータの分析と課題の抽出
・ステップ4:改善策の立案と実行(例:離職率低減施策)
・ステップ5:社外向けレポートの作成と開示
このプロセスを通じて、人的資本に対するPDCAサイクルを企業全体で回すことができるようになります。
日本企業における課題と今後の展望
遅れる開示対応と「見せ方」の工夫が鍵
日本企業においては、欧米企業に比べて人的資本の開示がまだ進んでいないのが現状です。その主な要因には以下があります。
・人材情報が定量化されていない
・評価項目に対する社内合意が取れていない
・数値が悪いと企業価値を損なうという懸念
・人的情報を資産として認識する文化が希薄
しかし、今後は上場企業における開示義務化や投資家からの圧力が高まる中で、人的資本の「見せ方」も含めたブランディング戦略が求められるでしょう。
人的資本の開示は「義務」ではなく「成長戦略の一部」と捉えるべき時代が来ています。
まとめ
ISO30414は、人的資本情報を国際的な基準で評価・開示するための指針です。企業の持続可能な成長に向けて、「人」に対する投資や戦略をいかに見せ、いかに実行しているかが問われる時代において、その重要性はますます高まっています。
開示のための体制整備はもちろん、開示後の活用まで視野に入れることが、企業価値を高めるための新しい競争力になります。人的資本を「資産」として扱う姿勢が、これからの企業にとって不可欠な経営戦略となるのです。


